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千葉地方裁判所 昭和53年(ワ)301号 判決 1978年10月23日

原告

相沢昭男

被告

株式会社君津産業

ほか二名

主文

一  被告らは各自原告に対し、金四六万二七一八円とうち金四二万二七一八円に対し、昭和四六年一一月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告に対し、金八八八万四〇九九円とうち金八〇八万四〇九九円に対する昭和四六年一一月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

原告は次の交通事故によつて次のとおりの傷害を受けた。

(一) 日時 昭和四六年一月二五日午後一〇時一五分ころ

(二) 場所 千葉県君津市内箕輪四五五―一先路上

(三) 被告車 ブルドーザー(D五〇P一一型)

運転者 被告 宇川学(以下、被告宇川という。)

(四) 原告車 普通乗用自動車(千葉五五せ九八八五号)

運転者 原告

同乗者 訴外加藤儀一郎、同長谷川清、同鹿間友次郎

(五) 態様 原告車が右三名を同乗させて木更津市方向へ進行中、前記現場付近路上に差しかかつた際、原告は前方左側路上隅に三、四名の者が円陣を作つて立話をしているのを発見したので、これを避けて通過しようとして、ハンドルを右に切り、道路中央寄りに進路を変更した矢先、道路右側の工事現場から突然被告車が道路中央を越えて原告車の進行車線へ後退してきたため、出合頭に原告車と衝突した。

(六) 傷害の部位、程度 原告は右事故により頭部外傷、顔面挫創、胸部打撲、両下肢打撲、左肋骨々折および左肺損傷の傷害を受けた。

2  責任原因

(一) 被告宇川

被告宇川は、被告車を道路上に発進させてはならないし、万一道路上に発進させるには、前後方を注視して事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、これを怠つた過失により本件事故を発生させたものであるから民法七〇九条による損害賠償責任がある。

(二) 被告株式会社君津産業(以下、被告君津産業という。)

被告君津産業は、被告車を所有して業務に使用し、自己のため運行の用に供していたものであり、また、被告宇川を雇傭し、同被告が被告君津産業の業務執行中に前記過失により本件事故が発生したのであるから自動車損害賠償保障法(以下、自賠法と略称する。)三条、民法七一五条による損害賠償責任がある。

(三) 被告岡崎建材こと岡崎正(以下、被告岡崎という。)

(1) 被告岡崎は、被告君津産業から被告車を運転手付で賃借して同車を自己の業務に使用し、自己の運行の用に供していたものであるところ、被告宇川の前記過失により本件事故が発生したのであるから、自賠法三条、民法七一五条による損害賠償責任がある。

(2) 被告岡崎は被告車の賃借人として、被告君津産業に代わつて被告車による業務の執行を監督する立場にあつたのであるから民法七一五条二項による損害賠償責任がある。

3  損害

(一) 治療関係費 金八七万四〇九九円

(1) 入院治療費 金五〇万四二五九円

(2) 通院治療費 金七万六八〇九円

(3) (1)(2)および後記(7)以外の治療費(昭和四六年九月一日以降の分) 金三万円

(4) 入院中の付添看護費 金七万九二〇〇円

訴外加藤美代に対して支払つた付添費用、一日金一二〇〇円として昭和四六年一月二五日から同年三月三一日までの分

(5) 栄養食費 金二万二四三一円

(6) 入院中の雑費 金三万九〇〇円

(7) 歯の損傷による治療費 金九万円

(8) 眼鏡の破損による損害 金一万五〇〇円

(9) 入退院時の医師、看護婦への謝礼 金三万円

(二) 休業損害 金三六〇万円

原告は肩書地を事務所兼住居としてユニツトクーラーその他酪農に必要とする機械器具等の販売、取付工事を業とする者で、昭和四〇年一〇月ころから営業を始め、事故当時使用人三名で営業をしていたが、原告自身の開拓によつて成長してきた事業であるため、原告の事業そのものが、原告の受傷後、同四六年六月末まで休業状態となり、その間原告は収入を得られなかつた。本件事故当時の原告の収入は一か月六〇万円であつたから、その間の原告の休業損害は三〇〇万円となる。

(三) 車両損害 金一一一万円

原告は原告車を所有していたが、右車は本件事故により大破し、使用不能となつた。本件事故は右車を購入した直後の事故で、その購入価額は一一六万円であるところ、事故後の査定価額は五万円であるから、右車両損害は一一一万円である。

(四) 慰謝料 金二五〇万円

本件事故による原告の慰謝料は、原告の傷害の部位・程度、原告の事業に与えた打撃その他諸般の事情を考慮して二五〇万円が相当である。

(五) 弁護士費用 金八〇万円

以上のとおり原告は被告らに対し、金八〇八万四〇九九円を請求しうるものであるところ、被告らはその任意の弁済に応じないので、原告は弁護士たる本件原告訴訟代理人に本件訴訟を委任し、手数料および謝金として認容額の一割を支払うことを約したのでその内金八〇万円を請求する。

(六) 結論

よつて、原告は被告らに対し、各自金八八八万四〇九九円およびうち弁護士費用を除く金八〇八万四〇九九円に対する本件事故発生の後である昭和四六年一一月一九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告三名)

1 請求原因1項のうち(一)ないし(四)の事実は認め、(五)のうち、原告車が前記同乗者三名を同乗させて木更津市方向へ進行中、現場付近路上に差しかかつたことおよび被告車と原告車が衝突したことは認めるが、その余の事実は否認し、(六)の事実は知らない。

2 同2項のうち(一)の事実は否認する。

3 同3項の事実はすべて知らない。

(被告君津産業)

4 同2項(二)のうち、被告君津産業が、被告車を所有していたこと、被告宇川を雇傭していたことおよび本件事故が発生したことは認めるがその余は否認する。

(被告岡崎)

5 同2項(三)のうち、被告岡崎が、被告君津産業から被告車を運転手付で賃借して同車を自己の業務に従事させたことおよび本件事故が発生したことは認めるが、その余は否認する。

三  被告らの主張

本件事故は原告の左記過失によつて生じたものである。

1  被告岡崎は、君津市(旧君津郡君津町)内箕輪四五五番の一の盛土(埋立)工事(以下、本件埋立工事という。)を請負施行していたものであるが、右土地は国道一二七号線に接続している(館山市方面から木更津市方面に向い、右国道の右側に位置する)ので、右国道から埋立地へ土砂運搬用の自動車が乗入れおよび退出するに際し、右国道管理者の建設省に道路工事施行承認の申請をなし(右申請は右土地の所有者である訴外岸常次郎がなした)、同省の許可を得て、本件埋立工事を開始したものである。

2  右工事のための土砂運搬車は、館山市方面から木更津市方面へ進行し、本件事故現場を右折して右埋立地に進入し、その逆方向に退出するので、右国道を通行する歩行者や自動車の進行に危険および支障を来さないため、右工事の責任者である被告岡崎は、右埋立地の入口から館山市方面へ約二〇ないし二五メートルの地点に常時少なくとも一人、木更津市方面へ約二〇ないし二五メートルの地点に同じく一人を配置して、右運搬車の進入や退出の際、これと衝突、接触等の事故を起こさないように歩行者や自動車に危険を知らせ、停車徐行の合図等交通整理をさせていたものである。特に夜間は、右の整理員に赤い電灯を持たせ、それにより歩行者や自動車に危険を知らせていたものである。

3  本件事故の際も、右同様の交通整理をしていたのであり、偶々埋立の土砂の一部が、右国道の右側(館山市方面から木更津市方面へ向けて)の一部にあふれ、これを片付けるため被告宇川運転のブルドーザーが、右整理員の指示の下に埋立地から右国道上に出て作業しようとしていたものである。そこへ、館山市方面から木更津市方面へ向う原告車が進行して来たので、整理員の訴外川名進は、危険を知らせて一且停車させるため、原告車の約四〇〇メートル前方で前記電灯を大きく回して合図したが、原告車はこれを無視して時速約七〇キロメートルの高速で突込んで来て、事故現場直前で進路を右車線に変更し、そのまま前記ブルドーザーと衝突したものである。

4  右事故現場から館山市方面は四〇〇メートル位見通しがきき、その間には二ケ所信号機が設置され、右事故当時いずれも黄色の注意信号を点滅させていたのであるから、同所を進行する原告としては、右信号に従い、徐行等の安全運転をすべきであり、また前記のごとく整理員が交通整理をしていたのであるから、前方を注視しかつ右交通整理(赤い電灯による停車の合図)に従い、徐行もしくは停止等の措置を講ずべき注意義務があるのにこれを怠り、本件事故を発生させたものである。

5  よつて、本件事故は原告の過失により生じたものである。

四  抗弁

(被告君津産業)

1 運行供用者の地位の喪失

被告君津産業は本件ブルドーザーを被告岡崎に運転手付で賃貸していたのであり、その期間中は被告君津産業において運行に関し、運転手を指揮監督することはなく、本件ブルドーザーおよび運転手とも、賃借人である被告岡崎が排他的に管理支配し自らの運行の用に供していたのであつて、被告君津産業はその運行を支配すべき立場になかつた。

(被告岡崎)

2 免責

被告宇川は、埋立地から右国道上に進出する際、道路上の安全を十分確認し、かつ前記整理員の指示に従つて運転していたのであるから同人に運転上の過失はなく、また被告岡崎においても、前記のごとく整理員を配置して適正な交通整理をし本件のごとき万一の事故に備えて万全の措置を講じ、かつ被告宇川に対しても十分監督していたのであるから、本件ブルドーザーの運行に関し過失はない。本件事故が原告の過失により生じたことは、前記のとおりである。

本件ブルドーザーには構造上の欠陥または機能の障害は全く存しない。

五  抗弁に対する認否

抗弁事実中、1項の被告君津産業が本件ブルドーザーを被告岡崎に運転手付で賃貸していたことは認めるが、その余は全て否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因1項の(一)ないし(四)の事実および(五)のうち原告車と被告車とが衝突したことについては当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第一三号証によれば、原告は本件事故により、同項(六)記載のとおりの傷害を受けたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

二  責任原因

1  被告宇川

成立に争いのない甲第二三号証の一ないし三、同第二四号証の一、二、同第二五ないし第四〇号証、同第四六号証、原告本人尋問の結果と弁論の全趣旨とにより本件事故の翌日である昭和四六年一月二六日に原告車、被告車及び事故現場付近を撮影した写真と認められる甲第二〇号証の一ないし一〇、証人加藤儀一郎、同川名文雄、同川名進、同苅込好雄、同石川明の各証言、被告岡崎正、同君津産業代表者、原告の各本人尋問の結果を総合すると、次の(一)ないし(四)の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  本件事故現場は、館山市から木更津市方面に通ずる車道幅約六・六メートルのアスフアルト舗装道路で、センターラインの表示はない。右道路の最高速度規制は、高速車につき六〇キロメートル毎時である。右舗装部分の両側は幅約一メートルの砂利の路肩になつている。現場付近は平坦な直線で見通しは良いが、付近に照明設備がないため事故発生当時は暗く、また折柄の小雨のため路面は湿潤していた。現場付近には多量の泥砂が散在していたが、スリツプ痕等は存在しなかつた。

(二)  被告車はコマツD五〇P一一型ブルドーザーで、車幅三・二メートル、車長四・七三五メートルであり、原告車は普通乗用自動車で車幅一・六メートル、車長四・六五メートル、車高一・四四メートルである。

(三)  被告宇川は、本件事故当時、被告車を運転して本件埋立工事に従事していたところ、右埋立に使用する土砂の一部が本件事故現場付近の道路上にあふれたので、これを片付けるため右埋立地から本件事故現場である道路上へ被告車を後退させた。当時、本件事故現場から約二〇メートル館山市方面寄りの地点においては、被告岡崎から依頼をうけた作業員の訴外川名進が、埋立地からの車の出入に伴う危険を通行中の車両に知らせるべく、赤色懐中電灯を所持して交通整理にあたつていた。被告宇川は、右道路上へ出る直前、右側後方約五九メートルの地点に時速約六五キロメートルの高速で館山市方面から本件事故現場の方へ走行して来る原告車を発見するとともに、右川名が、原告車の進行左側車線上に出て赤色懐中電灯を回して原告車に停止を求めているのを認めた。被告宇川は、走行して来る原告車を右側後方に見ながら、そのまま後退を続け道路中央付近まで移動したところ、原告車が右川名の合図にもかかわらず停止せず、同人を避けるようにして右寄りに進路を変更し、全く減速する様子もなく直進して来るのに気付き、道路中央付近で停車して原告車の通過を待つていた。

(四)  原告車は、全く制動措置を採ることなく、時速約六五キロメートルの速度のまま被告車の右後部キヤタピラ部分に激突し、原告車の右前部を大破した。

右認定事実に基づいて判断するに、被告宇川は、被告車を後退させて埋立地から道路上に出る直前、右側後方約五九メートルの地点に時速約六五キロメートルという高速で館山市方面から本件事故現場の方へ走行して来る原告車を発見したのであるから、原告車が右川名の停止の合図に従つて停車するのを確認するか若しくは同車が通過するのを待つて道路上への後退を開始する措置を採りさえすれば、本件事故を回避することができたものと解される。そして、右川名の停止の合図は、単なる私人による交通整理に他ならないから、被告宇川にかような注意義務を課すことが酷に過ぎるものとは考え難い。然るに、被告宇川はこれらの措置を採ることなく漫然と被告車を道路上へ後進させたため、本件事故を惹起させたものである。

そうすると、本件事故は、被告宇川において被告車を埋立地から道路上に後退させるに際し、前後左右を注視してその際の交通状況に応じた適切な措置を採り、もつて事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのにこれを怠つた過失により発生したものということができるから、被告宇川は、民法七〇九条により本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

2  被告君津産業

請求原因2項(二)の被告君津産業が被告車を所有して同車を自己の業務に使用していたこと、被告宇川を雇傭していたことについては当事者間に争いがなく、本件事故が被告宇川の過失により発生したことは前認定のとおりである。

また、被告君津産業が被告岡崎に被告車を運転手付で賃貸したこと、被告宇川がその運転手として派遣されていたことおよび本件事故が右賃貸中に発生したことは当事者間に争いがなく、被告岡崎および被告君津産業代表者各本人の供述によれば、被告車の賃貸値は一両日に亘る程度の短期間で、賃料は一時間単位でおよそ金六、〇〇〇円位であつたこと及び被告君津産業は、これまでにも同業者に土木機械を貸していたことが認められる。右認定事実によれば、本件の被告車の賃貸借も、被告君津産業の本来の業務に付随する業務行為というべきであるから、本件事故は、被告君津産業の事業執行中に発生したものと解するのが相当であり、また被告君津産業は、被告車に対する運行利益は勿論運行支配をも有していたものといわなければならない。

そうすると、被告君津産業主張の運行供用者の地位喪失の抗弁は失当であり、同被告は、人損については保有者として自賠法三条により、物損については使用者として民法七一五条により、本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

3  被告岡崎

被告岡崎が、被告君津産業から被告車を運転手付で賃借したこと、その運転手として被告宇川が派遣されていたことは当事者間に争いがなく、本件事故が被告宇川の過失により発生したことは前認定のとおりである。そして、被告岡崎本人の供述によれば、右賃貸借中の被告車の管理は、被告宇川若しくは被告君津産業がしていたが、被告岡崎は、被告宇川に対して本件埋立工事についての全般的な指示をなし、右指示に基づいて被告車による作業をさせていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、被告岡崎と同宇川との間には、雇傭関係こそないが、使用者と被用者と同視しうる程度の実質的な指揮監督関係があつたものと解するのが相当であり、また、被告岡崎は右賃貸借中、被告君津産業と並んで、被告車の運行を支配しかつ運行の利益を得ていたものといわなければならない。

被告岡崎主張の免責の抗弁は、前記のとおり、被告宇川の過失が認められることから、その余の判断を加えるまでもなく失当である。

してみると、被告岡崎は人損については保有者として自賠法三条により、物損については使用者として民法七一五条により本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

三  損害

1  治療関係費 金七三万七一六八円

(一)  入院治療費 金五〇万四二五九円

原告本人の供述により真正に成立したものと認められる甲第二ないし第六号証と同供述を総合すれば、原告は本件事故により、昭和四六年一月二五日から同年四月一〇日まで計七六日間訴外石井医院に入院し、入院中の治療費として、同医院に対し右金員を支払つたことが認められる。

(二)  通院治療費 金七万六八〇九円

成立に争いのない甲第一一号証、原告本人の供述により真正に成立したものと認められる甲第七号証によれば、原告は昭和四六年五月から同年八月までの通院治療費として合計金八万六八〇九円を訴外石井医院に対して支払つたことが認められ、そのうち、原告請求の限度で金七万六八〇九円を通院治療費と認める。

(三)  入院中の付添看護費 金七万六八〇〇円

原告本人の供述およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第四一、第四二号証によれば、原告は訴外石井医院に入院中の昭和四六年一月二七日から同年三月三一日までの六四日間、訴外加藤美代に付添看護を依頼し、その付添看護料として金七万六八〇〇円(一日当り金一、二〇〇円)を支払つたことが認められる。そして、前認定の原告の傷害の部位・程度に照らして判断すると、右の出費は、本件事故と相当因果関係にある損害ということができる。

(四)  入院中の雑費(栄養食費を含む。) 金二万二八〇〇円

原告が、七六日間にわたつて入院したことは前認定のとおりであるから、右入院期間中、通常一日三〇〇円を下らない入院雑費(栄養食費を含む。)を要したものと認めることができ、従つて、これらの合計金二万二八〇〇円をもつて本件事故と相当因果関係にある損害と認める。右金額を超える分についてはこれを認めるに足りる証拠がない。

(五)  歯の損傷による治療費 金四万六〇〇〇円

原告本人の供述およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第四四、第四五号証によれば、原告は本件事故により歯を損傷し、その治療費として訴外出口歯科医院に対し、四万六〇〇〇円を支払つたことが認められるが、右金額を超える分については、これを認めるに足りる証拠がない。

(六)  眼鏡の破損による損害 金一万五〇〇円

原告本人の供述およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第一〇号証によれば、原告は本件事故により眼鏡を破損したので、訴外鳥飼時計店に眼鏡の枠・レンズ代として金一万五〇〇円を支払つたことが認められる。

(七)  前記(一)(二)(五)以外の昭和四六年九月一日以後の治療費および入退院時の医師、看護婦への謝礼については、本件全証拠によつてもこれを認めることはできない。

2  休業損害 金三八万一六円

成立に争いのない甲第四七、第四八号証の各一ないし四、同第四九号証の一、二および原告本人の供述によれば、原告は本件事故当時、千葉酪農商事の屋号で酪農機械器具の販売等の事業を経営しており、昭和四五年度の個人所得金額は金八八万九二七七円であること、原告は使用人三名を用いて右事業を行なつていたところ、右事業は原告が第一線の販売を担当して業績を維持してきたものであつて、本件事故による原告の負傷によつて、右事業経営そのものがほとんど成り立たなくなり、同四六年六月末まで原告は実質的に所得を得られなかつたことが認められる。なお、原告は本件事故当時一か月六〇万円の収入を得ていたと主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、昭和四六年一月二六日から同年六月末日までの原告の休業損害は、一日当り金二四三六円の割合として一五六日分合計金三八万一六円が相当である。

3  車両損害 金一一一万円

前掲甲第二〇号証の一ないし三、第四六号証並びに成立に争いのない甲第四七号証の二、原告本人の供述およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第四三号証によれば、原告は原告車を昭和四五年一二月訴外千葉トヨタ自動車株式会社から代金一一六万円で購入したこと、原告車は本件事故により大破して使用不能になり廃車処分にされたこと、本件事故後の同車の査定価額は金五、〇〇〇円であつたこと、原告は同車を事故当時まで約一か月間原告の営業用に使用していたことが認められる。そして、原告車の耐用年数は六年で、定率法による減価償却率は三一・九パーセントが相当であるから、約一か月間の使用による償却部分を控除すると、原告車の事故当時の評価額は金一一二万九一六四円と認められる。

従つて、右金額から事故後の査定価額金五、〇〇〇円を控除すると、原告の受けた車両損害は金一一二万四一六四円となるので、そのうち原告請求の限度で金一一一万円を右損害と認める。

4  原告の過失(過失相殺)

前記二の1項掲記の各証拠を総合すると、次の(一)ないし(三)の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(一)  原告は、館山市方面から本件事故現場に至るまで、折柄の小雨の中を平均時速約六五キロメートルの高速で原告車を運転し、事故の直前、本件事故現場から館山市方面へ約五〇メートルの地点にある信号を通過する際にも、同信号が黄色点滅の注意信号を表示していたのに全く減速せず、本件事故現場から館山市方面へ約三〇数メートルの地点で、約一〇数メートル前方の左側車道上に訴外川名進らを発見したものの、同人の停止を求める合図には気付くことなく、同人らとの衝突を避けて道路中央寄りに進路を変更し、時速約六五キロメートルのまま走行中、その直後、前方約五メートルの道路中央付近に黒い大きな物体(停車中の被告車)を発見したが、制動措置も採る暇もなく被告車に激突した。

(二)  被告車の右停車位置は、その最後部が道路中央付近にあり、道路中央を越えていたとしても、せいぜい原告車の走行車線の方へ約五〇センチメートル程度(前掲甲第三九号証参照)にとどまつていた。一方、本件道路の車道幅員は約六・六メートルであるから、原告車(車幅は前認定のとおり一・六メートル)の通行可能な車道左側の幅員は少なくとも約二・八メートルあつた。

(三)  原告車は訴外川名進らとの衝突を避けて道路中央寄りに進路を変更した際、少なくとも車体の一部が道路中央を越えて、右側車線上を走行し、そのまま被告車と衝突した。

右認定事実によれば、本件事故当時は夜間で小雨が降つていたとはいえ、前示のとおり、本件現場付近は見通しのきく平坦な直線区間であることから判断して、原告において通常の注意義務をもつて前方を注視してさえいれば、相当の距離をおいた手前から訴外川名進の停止の合図あるいは被告車の存在に気付くことができ、停車するか若しくは減速・徐行して進路を左側に変更し被告車の脇を通過すれば、極めて容易に本件事故の発生を防止することができたものと認められるところ、原告は前記のとおり、右停止の合図はおろか被告車の存在にも衝突の直前まで全く気付かなかつたものである。してみると、原告は本件事故の直前、運転者として最も基本的な注意義務である前方注視義務を著しく怠つたものといわざるをえない。

以上によれば、前認定の被告宇川の過失に比し、原告の右過失が本件事故の発生に寄与した割合は極めて高いものといわなければならず、原告の過失割合は九割とするのが相当である。

5  慰謝料 金二〇万円

前示原告の傷害の部位・程度、治療経過、原告の事業に与えた影響と、事故態様、原告の過失、その他諸般の事情を考慮すれば、金二〇万円が相当である。

6  損害の合計 金四二万二七一八円

以上1項ないし3項により認容されるべき損害に九割の過失相殺をして算出した金額に慰謝料を加算した合計は金四二万二七一八円(2,227,184×10/100+200,000=422,718)

と算定される。

7  弁護士費用 金四万円

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告が被告らに対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は、金四万円とするのが相当である。

四  結論

よつて、原告の本訴請求は、被告ら各自に対し、金四六万二七一八円とうち弁護士費用を除く金四二万二七一八円に対する本件事故発生の後である昭和四六年一一月一九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の原告の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小木曽競 橋本和夫 本田陽一)

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